今回はユーザー展開の要件定義タスクの進め方について、概要を解説します。
システム構築フェーズの最初の工程は要件定義工程です。
要件定義工程はアプリケーション開発、インフラ構築、移行、運用保守、ユーザー展開、それぞれの観点に対して各種要件を固め、計画を具体化する工程です。
システム構築フェーズの一番最初の工程であり、お客様との密なコミュニケーションが必要で難しい工程でもあります。
今回は要件定義工程の中でもユーザー展開で実施する要件定義を解説します。
要件定義工程は経験がものをいう上流工程ですので、上流工程に強くなりたいと思うなら、先輩について経験できるよう、知識を吸収して機会があれば積極的にチャレンジしてみると良いと思います。
ユーザー展開における要件定義では、展開計画と教育計画を行う
ユーザー展開における要件定義の作業は、ユーザー展開をどのように進めるかの全体計画を策定することです。具体的には展開計画と教育計画を行います。
- 展開計画とは、新しい業務・システムへ切替するにあたり、ユーザーへいつどのように広報・適用していくかを計画することです
 - 教育計画とは、ユーザーへ新しい業務・システムの操作をいつどのように理解してもらうかを計画することです
 
要件定義(ユーザー展開)のアウトプット(成果物)としては、展開計画・教育計画をまとめたユーザー展開計画書になります。
それではひとつずつ詳しく見てみましょう。
展開計画では新しい業務・システムへ切替するにあたり、ユーザーへいつどのように広報・適用していくかを計画する
新システムのリリースにより、現行の業務は新しい業務へ、現行システムは新システムへ切り替わります。
この切替にあたって一番影響を受けるのがユーザーになりますので、ユーザーにきちんと概要や段取りを理解してもらう必要があります。
展開計画は、システムを利用するユーザーに対し、いつ何をどのように進めていくかを計画することです。
展開における基本的なステップとしては、以下のようになります。
- ユーザーへ新しい業務・システムについての概要、スケジュール(切替時期やそれまでの段取り)、お願いしたいことを説明する
 - ユーザーマニュアル、トレーニング環境等を準備する
 - ユーザートレーニングを行い、ユーザーに新しい業務や新システムの操作方法を覚えてもらう
 - ユーザーにユーザー受入テストを実施してもらい、新しい業務がきちんと回るか確認してもらう
 - 新しい業務・システムへの切替を行い、ユーザーからの問合せ対応を行う
 

「展開」という言葉は、プロジェクトによっては「広報」や「業務移行」と言ったりします。
ユーザー展開の作業は、プロジェクト全体で決めておく方針があったり、他のタスクと前後関係が発生するため、計画を立てる時にはプロジェクト全体で方針をすり合わせたり、他のタスクとの整合性や全体方針を確認しないと、後で行き詰まるので要注意です。
例えば、
- ユーザーへの説明会を行う際には、新しい業務や新システムの概要が固まっていないといけないので、アプリケーション開発の要件定義(アプリ)タスクでおおよその整理できてからでないとできません。
 - ユーザーマニュアルを作成する際には、システムの画面キャプチャーが必要になるので、ある程度動くアプリケーションや画面の紙芝居が必要になります。
 - ユーザートレーニングを実施する場合、専用の環境で実施するか、(時間の制約やリスクを受容して)どこかの環境に相乗りするか方針を決めておく必要があります。
 - ユーザー数が多い場合、ユーザー全員に対してアプローチするのか、各部署で推進担当を決めてもらって推進担当向けにアプローチし、それ以外のユーザーには推進担当から共有してもらうかの方針を決めておく必要があります。
 - 新しい業務・新システムへの切替は、リリース時に一括で全ユーザーを切り替えるか、一部の部署から始めて段階的に適用範囲を広げていくかの方針を決めておく必要があります。
 
のような感じです。
教育計画ではユーザーへ新しい業務・システムをいつどのように理解してもらうかを計画する
ユーザーに詳細な業務の流れやシステムの操作を覚えてもらう手段として、ユーザートレーニングを実施することがあります。
一般的にユーザートレーニングは、会議形式(会議室やWeb会議)で講師がマニュアルや説明資料を基に講義形式で説明し、実際にユーザーに新しいシステムに触ってもらいながら覚えてもらうことが多いです。
このあたりは進め方が比較的複雑になりやすいため、教育計画としてユーザートレーニング部分の進め方を深堀り検討します。
ユーザートレーニングに必要な情報や作業は、概ね以下のとおりです。
- トレーニングメニュー・スケジュールの策定及び役割分担
 - 説明資料やユーザーマニュアルの準備
 - ユーザートレーニング環境や必要なデータの準備
 - 参加者との日程調整
 - トレーニング実施とその後のQAサポート
 
これにプロジェクトの特性を加味して必要な作業を見極め、段取りを決めておかないとスムーズに進められません。
もしも段取りが悪かった場合、ユーザーが新システムに対して不信感を持ってしまったり、興味を示さず操作をきちんと覚えてもらえません。
その結果、いざ新しい業務・システムに切り替わった際にトラブルが頻発し、誰も幸せにならない状況に陥ってしまうリスクがあります。
そうならないためにも、教育計画を立てて段取りよく進めていく必要があります。
展開計画と同様、アプリケーション開発やインフラ構築などの作業と前後関係が発生しやすく影響を受けやすいので、横の整合性を意識して計画を立てましょう。

どうしてもSEはシステムの中身や技術的なことに目が行きやすいです。
しかし、ステークホルダーの中でも特にユーザーは重要な存在であり、ユーザーに対して丁寧にアプローチし、新システムに対して愛着を持ってもらえると、物事がスムーズに進みやすくなります。
常にユーザーを意識しながらプロジェクトを進めましょう。
まとめ
要件定義(ユーザー展開)タスクでは、
- 展開計画にて、新しい業務・システムへ切替するにあたり、ユーザーへいつどのように広報・適用していくかを計画する
 - 教育計画にて、ユーザーへ新しい業務・システムの操作をいつどのように理解してもらうかを計画する
 
を行います。
要件定義(ユーザー展開)を通じて、行うべきことは以下の2つです。
- 要件定義完了時点でユーザー展開に必要な計画や作業量を定め、より精度の高い見積を行い、必要に応じて予算やスケジュールを見直します
 - 次の基本設計工程にて、ユーザーに対して新システム説明会を開催するにあたり、スムーズに開催できるように段取りを決めておきます
 
より詳しい内容を知りたい方は、以下の書籍をオススメします。
開発プロセスを記載している書籍で、個人的にバイブルになるほどよい本は正直出会っていないのですが、以下は比較的全体像が書いてある印象です。
そのまま使えるほど具体的なところまで踏み込んではいないものの、参考にはなると思います。

私のバイブル「ゼッタイ失敗しない!驚異のプロジェクト実行術 」シリーズの大場さん著の書籍ですが、この書籍では息切してしまったのかなと思い、ちょっと残念。。
ですが、システム開発フェーズのプロセスについてこれよりも良い書籍を見たことないので、詳しく知りたい方はオススメです。
プロジェクト実行大全 Kindle版
  
  
  
  

コメント